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I 東アジアの文字に関する人文情報学的研究
東アジア世界とは端的に言えば漢字文化圏ということになるが、この地域では漢字以外にも、漢字から派生したり、漢字と密接な関係を有する諸種の文字が生起し、また今日でも用いられている。それら諸種の文字を扱うための人文学的・情報学的研究をおこなうと同時に、それらに関する知識と技術の教育をおこなう。
すなわち、漢字情報学において蓄積された知見および技術を援用し、カナ・ハングル・クオックグーなど漢字と深い歴史的関係を有する周辺の表音文字、さらには西夏文字などの古代擬似漢字を含めた、東アジア世界の文字を総体的に扱う知識体系を構築する。
その際に留意しなければならないのは、文書やテキストの載体・形式も知識体系の重要な要素だという点である。こういった視点は今日のデータ処理には欠落している部分であり、文化の十全な継承のためには欠かすことができない。またこの種の情報の正確な伝承は、公証性をもつ文書、個人の証明、契約という社会制度、法律・経済活動のあり方にかかわる今日的な課題でもある。
さらに、上記の知識体系を情報化という視点から見直し、東アジア世界のさまざまな文献情報のデジタル化に資する。
そのためには、東アジア世界の文字に関する知識体系を研究し、多字化(マルチスクリプト化)・多言語化・国際化といった情報化技術を研究する必要がある。これらは日々変化・発展しつつあるものなので、学内外の協力を得つつ最新の知識と技術を有する専門家を養成する必要がある。
II 漢字文献ナリッジベースの構築
漢字文献研究の重層化・高度化に欠かせない漢字文献ナリッジベースを構築する。これによって、たとえば単一の専門用語から出発して、あらゆる関連情報(テキスト・画像・地図etc.)にアクセスが可能となる。これこそ、21世紀東アジア情報社会における「知の宝庫」にほかならない。これを実現するためには
(1)東アジアの全ての文献をマークアップ技術により電子テキスト化し、
(2)それらの文献に関するメタデータ(書誌情報)を集積し、
(3)これらの全情報を有機的に統合し、より高度なデジタル化を行う
ことが必要である。従来の研究によって蓄積された、そして今後の研究によって得られる東アジア世界・漢字文化圏に関わる知識と情報はこのナリッジベースの基礎となり、そこに十全に包含されることとなる。
漢字文献ナリッジベースの構築は、漢字文献研究に関する伝統的な知識と最先端のデジタル化技術の融合の中で、21世紀における新しい東アジア学のあり方、漢字文化の記述の方法を追求する試みであるとともに、その発展は漢字文化の中で生活する人々の諸活動にとって大きな波及効果をもつ成果となるはずである。
III 東アジア人文情報学人材育成プログラム
本計画は、これまでの研究・教育を発展的に継承した質の高い教育システムの構築を目的とする。すなわち、人文学と情報学を横断する教育の場を作り上げ、漢字文化の全般的ボトムアップを図ることである。本計画の事業推進担当予定者は、これまでも京都大学大学院人間・環境学研究科、および同文学研究科において、東アジア諸学に関する教育を行うだけでなく、京都大学学術情報メディアセンター(旧大型計算機センター)多言語情報研究委員会主催の「東洋学へのコンピュータ利用」セミナーを、14年間にわたり実施してきた。これらの実績の上にたち、さらに全学的な取り組みに留意して、
教育すべき対象は、
教育内容は以下の2種に大別できる。
上記教育プログラムの参加者には、このほかに共同研究会に参加させ、そこでさらに実践的指導を行いつつ、共同研究会での資料のデータベース作成や研究情報の発信の担い手として育成することになろう。すべての教育プログラム参加者に、毎年の研究成果を国際学会において外国語で口頭発表させることはもちろん、あわせてその論文を国際的ジャーナルに積極的に投稿させ、さらには、情報発信能力の練磨を目的として、東アジア人文情報学拠点のホームページで自己の研究成果を公開させる。
このほか、
以上の研究計画を遂行するために現有スタッフに加え、コンピュータ技術者などについても、COE特別研究員等の若手研究者を採用し、研究に従事させる。
また上記の3プログラムは、研究・教育プログラムともに、実際の運営において、京都大学(京都)に1拠点を置きながら、中国社会科学院および北京大学(中国)・ソウル大学(韓国)・中央研究院(台湾)などトップクラスの研究機関と学術交流協定を結び、東アジア全域にまたがる人文情報学の国際共同研究教育拠点ネットワークを形成して推進されるものである。したがってこれらの機関とのあいだに研究者・学生の頻繁な交流と意見交換の機会を設けるとともに、海外拠点の設置を行う。
さらに欧米の主要な漢字文化や人文情報学の研究機関、たとえばカリフォルニア大学・ハーバード大学・大英図書館・フランス極東学院・ライデン大学、またアメリカのバージニア大学・ピッツバーグ大学が共同で進めている日本語テキスト・イニシアティブなどとの積極的な連携をはかり、国際的に整合性のある研究を進める。ちなみにこれらの組織・拠点の多くとはすでに一定の研究交流実績を有する。
また本プロジェクト終了後も、グレードアップされた東アジア人文情報学センターを通じて、成果を継続的に発展させるとともに、拠点としての強化をはかる。