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拠点形成の目的、必要性・重要性

 本研究拠点の目指すものは純然たる情報科学ではなく、もちろん従来の人文科学や社会科学でもない。それは新しい学際領域としての東アジア人文情報学である。中国や日本をはじめとする東アジア諸国は長期にわたり漢字を媒体として、豊かな文化を育んできた歴史を有するが、そのような伝統文化を体現する東アジア人文学は21世紀の情報化社会において極めて大きなチャレンジを受けていると言える。これまでのコンピュータ・サイエンスでは、漢字にやさしい環境作りが十分でなかったこともあるが、一方で主として漢字を用いる学問分野が新しい環境にみずからを適応させるべき努力を怠ってきた面も否定できない。しかし新しい情報化された世界において十全に伝統を保持し、新たな発展を目指すためには、東アジア人文学を情報学によって新たに再編成することが不可欠であり、そのための方法と理論の確立が要請されている。

 本拠点形成計画では、漢字の研究を柱にしつつ、情報学的手法によって漢字文化圏における、あるいは漢字文化圏に関する人文学研究を再編成することを目的とする。漢字の情報化という面では、テキストをコード化しデータベースに仕上げるだけで事足れりとする考え方が横行していた印象を受けるが、本拠点の目指すところはむしろデジタル化によって失われる部分も含めたトータルな漢字文献の保持再生であり、煎じ詰めれば漢字文化の全き継承発展である。 そのためには、第一に漢字を中心とする東アジア諸言語の構造の体系的研究や多字化・多言語化・国際化などの情報化技術等、実際的な意味で漢字を情報化するための研究が必要となる。漢字および漢字文献の情報化はローマン・アルファベットのそれに比べていちじるしく立ち後れており、漢字と情報に関する諸問題の解決は、すべての漢字を用いる学問分野において緊急性が高いからである。 同時にそこで情報化される漢字文化、東アジア世界の文化に関する深い理解と洞察、そしてその記述のあり方についての研究も従来以上に進展させねばならない。京都大学が有する東洋学研究の長い歴史と輝かしい伝統の中で培われた知の蓄積を勘案すれば、京都大学および本拠点こそは、世界に先がけて、新たなインターフェースをもって漢字文化情報を発信するに相応しい場所であると言うことができる。

 このようにして発信される漢字文化情報は京都をして新たな漢字文化研究の世界的中心地たらしめるポテンシャルを持ち、東アジアおよび欧米世界から漢字情報学を指向する学生・若手研究者を集める力となる。漢字から出発して広く東アジアの文字言語に対する理解を有し、将来の研究を主体的に担う人材を育成しつつ、また彼らとともに研究を推進することによって、東アジア世界に関する人文学研究は東アジア人文情報学研究として新たに生まれ変わることになる。